不動産を売却したときの譲渡所得税は計算式が複雑で、結局いくら税金がかかるのか不安に感じる方が少なくありません。
3,000万円特別控除や軽減税率の併用、取得費の減価償却計算まで含めると、自分のケースに当てはめるのは想像以上に難しくなります。
5つのSTEPの流れと特例の使い分けを押さえれば、ご自身の数字でも試算スキルが身につきます。
譲渡所得税の計算式と、この記事で算出するゴール
譲渡所得税は、譲渡価額から税率までの5つの要素を順に確定させて算出します。
ある住み替え世帯のモデルケースで5つのSTEPを通し、計算式を分解しながら最終税額まで導きます。同じ手順をなぞれば、ご自身の数字でも試算可能です。
【譲渡所得税の基本式】
① 課税譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除
② 譲渡所得税額 = 課税譲渡所得 × 税率(短期/長期/軽減税率)
各STEPで確定する要素
・譲渡価額/所有期間 → STEP1
・取得費 → STEP2
・譲渡費用 → STEP3
・特別控除 → STEP4
・税率/最終税額 → STEP5
譲渡所得税は所得税・住民税・復興特別所得税の合算である
譲渡所得税は、所得税・住民税・復興特別所得税の3つを合算した税金です。
給与所得などとは別枠で計算する分離課税の対象で、不動産売却益のみに独立した税率が課されます。所得が増えるほど税率が上がる累進構造ではなく、所有期間で税率区分が分かれます。
長期譲渡所得(所有期間5年超)の税率は、所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%の合計20.315%です。
短期譲渡所得(所有期間5年以下)になると、所得税30%・住民税9%・復興特別所得税0.63%を合算した39.63%まで税率は跳ね上がります。
復興特別所得税は所得税額の2.1%相当を上乗せする時限的な税で、2013年から2037年までの25年間にわたり課税されます。
出典:国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」、「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」、「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」
計算式の全体構造:5つの構成要素と算出の順序
計算式は2段に分かれ、5つの要素を順に確定させることで最終税額が決まります。
譲渡価額から取得費・譲渡費用を差し引き、さらに特別控除を引いて課税対象を出したあと、税率を掛けて納税額を算出します。
構成要素を一つずつ並べると、譲渡価額・取得費・譲渡費用・特別控除・税率の5つです。
まず売却額と所有期間を固め、取得費から建物の減価償却分を差し引きます。続いて売却時にかかった費用を積み上げ、特別控除や軽減税率で課税対象を圧縮したあと、最後に税率を掛けて最終税額を導きます。
各STEPの計算結果は次のSTEPへ順に引き継がれるため、上から読み進めればご自身のケースでも完走可能です。
本記事で完走するモデルケース(築15年マンション×住み替え世帯)の前提条件
モデルケースとして設定するのは、築15年のRC造マンションを売却する住み替え世帯です。
ご自身の数字と見比べながら読み進められるよう、5つのSTEPすべてで同じ前提を使い続けます。
所有期間は10年を超え、マイホーム要件も満たす想定で、3,000万円特別控除や軽減税率の対象となる試算が可能です。
購入価額には建物2,200万円・土地1,600万円の内訳を置き、後段の減価償却計算で建物価額を活用します。
【モデルケースの前提条件】
・売却額 :5,500万円
・購入価額 :3,800万円(建物2,200万円/土地1,600万円)
・購入時期 :2010年4月
・売却時期 :2025年(2025年1月1日時点の所有期間14年9ヶ月)
・構造/面積 :RC造/70㎡
・取得時諸費用 :150万円(登記費用・仲介手数料等)
・売却時諸費用 :約190万円(仲介手数料181.5万円・印紙税等)
・居住状況 :売主が居住するマイホーム
STEP1:譲渡価額を確定し、所有期間で税率区分を判定する
STEP1では、譲渡価額と所有期間を固め、税率の区分を判定します。
譲渡価額には固定資産税精算金を加え、所有期間は譲渡年1月1日時点で数えます。モデルケースは長期譲渡所得かつ10年超軽減税率の対象です。
譲渡価額は売買代金に固定資産税精算金を加算した金額になる
譲渡価額は、買主から受け取った売買代金に固定資産税精算金を加算した金額です。
固定資産税は毎年1月1日時点の所有者に課税される税金です。年の途中で売却すると、引渡日以降の負担分を買主から精算金として受け取ります。
国税庁はこの精算金を譲渡対価の一部とみなし、譲渡価額(収入金額)に算入するよう案内しています。買主との合意で授受される金額であっても、実質的には売却代金の一部に組み込まれるためです。
一方、マンションの管理費や修繕積立金の精算金は固定資産税精算金とは扱いが異なり、譲渡価額に含めません。
出典:国税庁「No.3214 土地建物を売ったときの収入金額に含める金額」
所有期間は譲渡年の1月1日時点で判定する
所有期間は、取得した日から譲渡した年の1月1日までの年数で判定します。
起算日は不動産を取得した日(原則として引渡日)です。終点は譲渡年の1月1日とされ、実際の売却日までの年数とはずれが生じます。
たとえば2020年6月に取得した物件を、2025年7月に売却したと仮定しましょう。引渡日基準では所有期間5年1ヶ月ですが、2025年1月1日時点では4年7ヶ月にとどまり、短期譲渡所得として扱われます。
売却タイミングが年末に近いほど、1月1日基準で長期譲渡に切り替わる前後の判定差は大きい点に注意が必要です。年内売却を急ぐか翌年1月に持ち越すかで、税率区分が変わる可能性も無視できません。
相続や贈与で取得した不動産は、原則として被相続人・贈与者が取得した日から所有期間を引き継ぎます。
出典:国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」
短期・長期・10年超軽減税率の3区分とモデルケースへの適用
税率区分は、短期譲渡・長期譲渡・10年超軽減税率の3パターンに分かれます。
所有期間5年以下が短期譲渡所得で、税率は所得税・住民税・復興特別所得税の合計で39.63%です。5年を超えると長期譲渡所得となり、合計税率は20.315%まで下がります。
さらに、所有期間10年超のマイホーム売却には軽減税率の特例も用意されています。6,000万円以下の部分は14.21%、超過部分は20.315%となり、3,000万円特別控除との併用も可能です。
モデルケースの所有期間は14年9ヶ月のため、長期譲渡所得に該当します。マイホーム要件も満たしており、10年超軽減税率の対象です。
5年・10年の閾値は譲渡年の1月1日時点で判定されるため、年内売却か翌年売却かで適用税率が変わるケースも出てきます。
出典:国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」、「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」、「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」
STEP2:取得費を計算する(減価償却を反映した取得費の算出)
STEP2では、建物の減価償却を踏まえて取得費を算出します。
建物分は減価償却で価値の目減りを差し引き、土地分は購入価額のまま使います。登記費用や仲介手数料も取得費に含められます。
取得費は土地と建物に分け、建物分のみ減価償却する必要がある
取得費は土地と建物に分け、建物分のみ減価償却で価値の目減りを差し引きます。
建物は経年で価値が減少する資産として扱われるため、購入価額そのままでは取得費に計上できません。土地は時間が経っても価値が落ちない前提で計算されるため、購入価額のまま取得費に算入します。
マンションを売却する際は購入時の建物代金と土地代金を分けたうえで、建物分のみ減価償却の計算が必要です。売買契約書に内訳の記載があれば、その金額が出発点になります。
減価償却費は「取得価額×0.9×償却率×経過年数」で計算する
減価償却費は、取得価額の90%に償却率と経過年数を掛けて算出します。
計算式は「建物の取得価額×0.9×償却率×経過年数」です。構造別の償却率と保有していた年数を掛け合わせ、建物の価値減少分を金額化します。
マイホーム(非業務用)の償却率は、RC造・SRC造で0.015、木造で0.031です。事業用に比べて償却が緩やかに進むよう、法定耐用年数を1.5倍した数値が採用されています。
経過年数は購入日から売却日までを年単位で数え、6ヶ月以上の端数は1年に切り上げ、6ヶ月未満は切り捨てます。
たとえば2,200万円のRC造マンションを15年間所有したケースでは、減価償却費は2,200万円×0.9×0.015×15年=445.5万円です。
取得費には購入価額と取得時諸費用を含め、リフォーム費はケース判断になる
取得費は購入価額に加え、登記費用や仲介手数料などの取得時諸費用も算入できる金額です。
登記費用(登録免許税・司法書士報酬)、不動産取得税、印紙税、購入時の仲介手数料は取得費に算入できます。
建物のリフォーム費用は、設備費・改良費として取得費に上乗せできるケースがあります。ただし通常の修繕費(クロスの貼替え、水漏れ修理など)は対象外です。
一方、引越費用や住宅ローン保証料、火災保険料は取得費に含められない場合が一般的です。取得時に売主に支払った固定資産税精算金も取得費に算入できません。
判断に迷う費用は、税理士に確認すると安心して進められます。
モデルケースで取得費を計算する:減価償却を反映した試算
モデルケースの取得費は約3,504.5万円となります。
建物2,200万円から減価償却費を差し引き、土地1,600万円と取得時諸費用150万円を合算して算出します。
経過年数は購入の2010年4月から売却の2025年までで約15年です。6ヶ月以上の端数を1年に切り上げて15年として計算します。
減価償却費は2,200万円×0.9×0.015×15年=445.5万円となり、建物の取得費は2,200万円−445.5万円=1,754.5万円です。土地は購入価額そのまま1,600万円、取得時諸費用150万円も合算し、最終的に3,504.5万円が取得費の試算値となります。
【モデルケースのSTEP2計算】
・建物取得価額 :2,200万円
・償却率 :0.015(RC造・非業務用)
・経過年数 :15年(2010年4月〜2025年、6ヶ月以上を1年に切り上げ)
減価償却費 = 2,200万円 × 0.9 × 0.015 × 15年
= 445.5万円
建物の取得費 = 2,200万円 − 445.5万円 = 1,754.5万円
土地の取得費 = 1,600万円(購入価額のまま)
取得時諸費用 = 150万円
取得費合計 = 1,754.5万円 + 1,600万円 + 150万円
= 3,504.5万円
STEP3:譲渡費用を集計する(売却に直接結びついた費用の積上げ)
STEP3では、売却時にかかった譲渡費用を積み上げます。
仲介手数料と印紙税が中心で、取得費との境界を整理しながら集計します。モデルケースの譲渡費用は約191.1万円となります。
譲渡費用は売却に直接結びついた費用に限られる
譲渡費用は、売却のために直接かかった費用に限定されます。
不動産を売るためにかかった費用のうち、売却がなければ発生しないものが譲渡費用に当たります。代表例は仲介手数料や印紙税で、売却行為と直接結びつく費用です。
購入時にかかった費用との混同には注意が必要です。登記費用や仲介手数料を購入時に支払った分は取得費に算入し、売却時の費用は譲渡費用として別枠で集計します。
固定資産税や修繕費は、資産の維持・管理にかかる費用のため譲渡費用に含まれません。売却の有無に関係なく支払う費用は対象外です。
仲介手数料は「売却額×3%+6万円+消費税」の速算式で計算する
仲介手数料は「売却額×3%+6万円+消費税」の速算式で上限額が計算できます。
速算式は売却額400万円超のケースに適用され、200万円・400万円のラインで段階的に区切られる本来の計算式を簡略化したものです。
たとえば売却額5,500万円なら、5,500万円×3%+6万円=171万円が税抜の上限額で、消費税10%を加えると188.1万円となります。
法律で定められた上限のため、不動産会社との交渉で金額が下回るケースもあります。逆に宅地建物取引業法上、上限を超える請求は受けられません。
なお2024年7月1日以降の特例として、800万円以下の低廉な空き家等は税込33万円までの仲介手数料を請求できます。
出典:国土交通省「不動産取引に関するお知らせ(仲介手数料)」
印紙税や違約金、取り壊し費用も売却に結びつけば譲渡費用になる
印紙税や違約金、取り壊し費用も、売却に直接結びつく費用は譲渡費用の対象です。
印紙税は、不動産売買契約書に貼付する税金で、売主負担分が譲渡費用に算入されます。売買代金により段階的に税額が変わり、軽減税率の適用も受けられます。
売買代金1,000万円超〜5,000万円以下の場合は1万円、5,000万円超〜1億円以下の場合は3万円が軽減後の税額です。軽減税率は2027年3月31日までの契約に適用される時限措置として運用されています。
土地を売るために建物を取り壊した場合の取壊し費用や、より有利な条件で売却するため既存契約を解除した違約金も譲渡費用に含めます。
貸家を売るために借家人へ支払う立退料も対象に含まれ、賃貸物件の売却で発生する費用です。
出典:国税庁「No.7108 不動産の譲渡・消費貸借等に関する契約書の印紙税の軽減措置」
モデルケースで譲渡費用を計算する:仲介手数料と印紙税の積上げ
モデルケースの譲渡費用は約191.1万円となります。
集計するのは、仲介手数料188.1万円と印紙税3万円の合計191.1万円です。マイホーム売却のため立退料や取壊し費用は発生せず、シンプルな構成となります。
仲介手数料は、売却額5,500万円に速算式を適用して171万円(税抜)、消費税10%を加えると188.1万円(税込)です。印紙税は売買代金5,000万円超〜1億円以下に該当するため、軽減税率の3万円となります。
ここまでで譲渡価額5,500万円、取得費3,504.5万円、譲渡費用191.1万円が出そろい、特別控除前の譲渡所得の試算が可能になります。
【モデルケースのSTEP3計算】
・仲介手数料 :5,500万円 × 3% + 6万円 = 171万円(税抜)
171万円 × 1.1 = 188.1万円(税込)
・印紙税 :3万円(売買代金5,000万円超〜1億円以下、軽減税率)
譲渡費用合計 = 188.1万円 + 3万円
= 191.1万円
STEP4:特別控除・特例で課税対象を圧縮する
STEP4では、特別控除や特例を適用して課税対象を圧縮します。
マイホーム売却なら3,000万円特別控除と10年超軽減税率の併用が基本で、買換特例は3,000万円控除と二者択一になります。モデルケースは3,000万円控除で課税対象が0円となります。
3,000万円特別控除は、譲渡所得から最大3,000万円を差し引ける
マイホーム売却の3,000万円特別控除は、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例です。
所有期間の長短を問わず、現に住んでいるマイホームが対象です。住まなくなってからは、3年経過する日の属する年の12月31日までが適用期限となります。
譲渡所得が3,000万円以下なら全額が控除され、課税対象は0円です。3,000万円を超える部分のみ通常の税率で課税されます。
ただし利用には条件があり、前年・前々年に同じ控除を受けていないことが必須です。親族や同族法人など特別の関係者への売却ではないこと、買換特例や譲渡損失の損益通算の特例を併用していないことなども条件として課されます。
3年に1回しか利用できないルールにも注意します。
出典:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
10年超軽減税率は3,000万円特別控除と併用できる
10年超軽減税率は、3,000万円特別控除と併用できる特例です。
所有期間10年超のマイホーム売却では、課税譲渡所得6,000万円以下の部分が所得税・住民税・復興特別所得税の合計14.21%、超過部分は20.315%まで税率が下がります。
3,000万円控除と併用すれば、控除後の課税譲渡所得に対して軽減税率を掛けて計算します。先に3,000万円を差し引いてから、残額に低い税率を適用する順番です。
ただし、買換特例や住宅ローン控除との併用は認められていない点には注意が必要です。新居取得を伴うケースでは、特例選択で税負担が変わります。
出典:国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」
買換特例は3,000万円控除と二者択一で、選択判断は売却益の規模で変わる
買換特例は、売却益への課税を新居売却時まで繰り延べる仕組みで、3,000万円控除とは二者択一になります。
所有期間10年超かつ居住期間10年以上のマイホームを売り、一定期間内に新居を取得して住むケースが適用対象です。売却益にかかる税金が新居の売却時まで先送りされ、当面の納税負担を抑える効果があります。
ただし、3,000万円控除や軽減税率との併用は認められません。買換特例を選ぶと、3,000万円控除の節税効果を放棄することになります。
判断軸は、売却益の規模と新居保有期間です。売却益が3,000万円以下なら、3,000万円控除で課税対象を0円にできる方が有利です。3,000万円を大きく超え、新居を長期間保有する見込みなら、買換特例での課税繰延が選択肢になります。
新居の住宅ローン控除との関係や2027年12月31日までの適用期限など、判断要素が多いため、税理士に相談したうえで決めるのが確実です。
出典:国税庁「No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例」
モデルケースで3,000万円特別控除を適用:課税譲渡所得は0円になる
モデルケースは3,000万円特別控除の適用で、課税譲渡所得が0円となります。
特別控除前の譲渡所得は、譲渡価額5,500万円から取得費3,504.5万円と譲渡費用191.1万円を差し引いた1,804.4万円です。マイホーム要件・所有期間・親族間売却ではないなどの条件を満たすため、3,000万円特別控除を適用できます。
1,804.4万円は3,000万円の枠内に収まるため、特別控除を差し引いた課税譲渡所得は0円となります。所有期間14年9ヶ月で10年超軽減税率の対象でもありますが、課税対象が0円のため軽減税率は適用されません。
買換特例の選択肢もありますが、本ケースは3,000万円控除で課税対象が完全に消えるため、繰延を選ぶメリットがありません。
【モデルケースのSTEP4計算】
特別控除前の譲渡所得 = 5,500万円 − 3,504.5万円 − 191.1万円
= 1,804.4万円
特別控除 = 3,000万円(3,000万円特別控除を適用)
課税譲渡所得 = 1,804.4万円 − 3,000万円
= −1,195.6万円 → 0円(マイナスは切り捨て)
STEP5:税率をかけて最終税額を算出する
STEP5では、課税譲渡所得に税率を掛けて最終税額を算出します。
税率は短期・長期・10年超軽減の3区分から選び、復興特別所得税は所得税額の2.1%を上乗せします。モデルケースは課税対象0円のため税額も0円となります。
税率は所有期間に応じた区分を選び、課税譲渡所得に掛けて適用する
税率は、課税譲渡所得に対して所有期間に応じた区分の率を掛けて計算します。
短期譲渡所得(5年以下)は39.63%、長期譲渡所得(5年超)は20.315%、10年超軽減税率の対象は条件次第で14.21%または20.315%が適用されます。
これらの税率は所得税・住民税・復興特別所得税を合算した数値で、課税譲渡所得に掛けるだけで合計税額が算出できる形に整理されています。
復興特別所得税は本来、所得税額の2.1%を上乗せする仕組みです。長期譲渡所得の20.315%なら、所得税15%+住民税5%+復興特別所得税(15%×2.1%=0.315%)で内訳が決まります。
合算済みの税率を使えば、3つの税目を分けて計算せず一括で税額を算出できます。
出典:国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」、「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」
10年超軽減税率は6,000万円を境に14.21%と20.315%が切り替わる
10年超軽減税率は、課税譲渡所得6,000万円以下と超過で適用税率が分かれます。
6,000万円以下の部分は所得税10%+住民税4%+復興特別所得税0.21%で合計14.21%、6,000万円を超える部分は20.315%が適用されます。
たとえば課税譲渡所得8,000万円のケースで考えてみましょう。6,000万円までの部分は14.21%、残り2,000万円は20.315%で計算します。税額は6,000万円×14.21%+2,000万円×20.315%=852.6万円+406.3万円=1,258.9万円となります。
3,000万円特別控除と併用するときは、控除後の課税譲渡所得に対して6,000万円閾値が適用される順番です。控除前の譲渡所得が9,000万円なら、控除後の6,000万円に14.21%を掛けるだけで税額が決まります。
出典:国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」
モデルケースの最終税額は0円:3,000万円特別控除で課税対象がなくなる
モデルケースの最終税額は、課税譲渡所得が0円のため0円となります。
STEP4で算出した課税譲渡所得は0円です。3,000万円特別控除によって譲渡所得1,804.4万円が完全に相殺されたため、税率を掛ける対象が残りません。
軽減税率(14.21%)も適用対象ですが、課税対象が0円のため税率の出番がない状態です。所得税・住民税・復興特別所得税のいずれも納付不要です。
ただし、譲渡所得税が0円でも確定申告は必要になる場合があります。3,000万円特別控除の適用を受けるには、確定申告書を期日内に提出する必要が出てきます。
【モデルケースのSTEP5計算】
課税譲渡所得 = 0円
譲渡所得税額 = 0円 × 14.21%(または20.315%)
= 0円
最終納付税額 = 0円(所得税・住民税・復興特別所得税すべて0円)
※ただし、3,000万円特別控除を適用するため確定申告は必要
手取り額は譲渡価額から諸費用・税額・住宅ローン残債を差し引いて算出する
手取り額は、譲渡価額から複数の費用と税額を差し引いて算出します。
譲渡所得税は売却益への課税であり、売却額そのものから天引きされません。手取り額の計算には、別途仲介手数料や印紙税などの諸費用、そして住宅ローンの残債が反映されます。
モデルケースの手取り額は、譲渡価額5,500万円から譲渡費用191.1万円を差し引いた約5,308.9万円です。税額が0円のため、譲渡所得税の追加負担はかかりません。住宅ローン残債がある場合は、ここからさらに完済費用を差し引きます。
確定申告で還付や追加納税が発生するケースもあるため、実際の手取り額が最終確定するのは確定申告後です。試算段階では、ローン残債と確定申告のタイミングまで含めて把握すると、住み替えの資金計画が立てやすくなります。
【モデルケースの手取り額試算】
手取り額 = 譲渡価額 − 譲渡費用 − 譲渡所得税 − 住宅ローン残債
= 5,500万円 − 191.1万円 − 0円 − 住宅ローン残債
= 約5,308.9万円(ローン残債を除く)
※住宅ローン残債がある場合は、上記から完済費用を差し引く
取得費が分からないときの計算方法:3手法の比較と使い分け
取得費が分からないとき、概算5%・市街地価格指数法・建築価額表の3手法から選びます。
概算5%は誰でも使えますが、税負担は重くなる傾向です。市街地価格指数法は土地、建築価額表は建物の取得費推定に活用できます。組み合わせて使う判断も可能です。
概算取得費は売却金額の5%を取得費として申告できる
概算取得費は売却金額の5%を取得費として申告できる、最も簡便な方法です。
購入時の契約書や領収書が見つからず、実際の取得費が証明できないケースで使える特例です。租税特別措置法第31条の4を根拠としており、長期譲渡所得が前提条件として運用されています。
実際の取得費が売却金額の5%相当額を下回るケースや、購入時期が古く取得費が不明な場合に、概算取得費が使われます。
ただし、売却金額の95%が課税対象として残るため、税負担が重くなる計算結果になりがちです。取得費が判明していれば実額の方が有利なケースが大半のため、書類探索を優先します。
出典:国税庁「No.3258 取得費が分からないとき」、租税特別措置法第31条の4(e-Gov法令検索)
市街地価格指数法は宅地価格指数で土地の取得費を推定する
市街地価格指数法は、過去の宅地価格指数を使って土地の取得費を推定する手法です。
一般財団法人日本不動産研究所が公表する「市街地価格指数」を活用し、購入当時の土地価格を逆算します。指数は六大都市・大都市・全国の各エリア別に時系列データが整備されており、譲渡時の路線価から取得時点までさかのぼる計算が可能です。
計算式は「譲渡時の土地価格÷譲渡時の指数×取得時の指数」となり、地価動向を反映した推定取得費が算出されます。概算5%より高い取得費が出るケースが多く、節税につながる可能性があります。
ただし、税務署が必ず認めてくれる手法ではありません。妥当性が否定された場合、概算取得費に修正されたうえで過少申告加算税の対象になるリスクも残ります。利用前に税理士に相談したうえで採用するのが安全です。
建物の標準的な建築価額表は、建築年と構造から建物の取得費を算出する
建物の標準的な建築価額表は、建築年と構造から建物の取得費を推定する手法で、土地建物一括取得時に役立ちます。
国税庁が公表する一覧表に、建築年×構造別の1㎡あたり建築単価が掲載されています。建物の延べ床面積に単価を掛けると、新築当時の建物取得価額が算出されます。
主な用途は、土地と建物を一括取得して契約書に内訳がないケースの按分で、算出した建物価額を差し引いた残額が土地の取得費となります。
中古建物を取得した場合の取得価額は、建築時から取得時までの経過年数に応じた減価分を控除した残額です。
たとえば1991年建築・RC造・70㎡の物件なら、表上の単価329,800円×70㎡=2,308.6万円が新築時の建物価額です。中古取得の場合は、ここから減価分を差し引いて取得価額とします。
出典:国税庁「譲渡所得の申告のしかた」(建物の標準的な建築価額表)
3手法は概算5%が基本で、節税のために他手法を組み合わせる
3手法は概算5%が基本で、節税のために市街地価格指数法や建築価額表を組み合わせます。
書類が完全に失われると、概算5%が唯一の選択肢になります。税負担も重くなりがちです。土地の購入価格を推定できる材料があれば、市街地価格指数法を併用して取得費を引き上げる選択肢が生まれます。
土地建物を一括取得して建物価額が不明なケースでは、建築価額表で建物の取得費を算出し、残額を土地の取得費として扱います。
判断軸は税務署に合理性を説明できるかどうかです。市街地価格指数法は法令上の根拠が定まった手法ではないため、税務署が否認するリスクが残ります。否認時は概算5%への修正と加算税の対象になるため、税理士のチェックは欠かせません。
ケース別シミュレーションと確定申告までの準備
ここでは相続・共有名義・買換特例の3ケースを取り上げ、確定申告までの準備に触れます。
相続不動産は空き家特例、共有名義は各自で控除を適用、買換特例は繰延処理の確定申告が必要です。期限は売却年の翌年2月16日〜3月15日です。
相続不動産の売却では空き家特例で最大3,000万円が控除される
相続不動産の売却では、空き家特例で譲渡所得から最大3,000万円が控除されます。
被相続人が一人で住んでいた家屋を相続し、相続開始から3年経過する日の属する年の12月31日までに売却すると、最大3,000万円の特別控除が適用されます。マイホーム売却の3,000万円控除とは別枠で、相続人だけが使える特例です。
主な要件として、家屋は昭和56年5月31日以前の建築で区分所有登記がされていないものに限られます。売却代金は1億円以下で、物件は耐震基準適合または取り壊して更地化したうえで売却します。期限は令和9年12月31日までの売却完了です。
被相続人が老人ホームに入居していたケースも、平成31年4月以降の譲渡なら対象に含まれます。令和6年1月以降は買主が翌年2月15日までに耐震改修や除却を行えば、売主側の工事は不要です。
相続人が3人以上のときは、1人あたりの控除額が2,000万円に縮減される改正もありました。
出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
共有名義の売却は持分按分と特例の各自適用がポイントになる
共有名義の売却では、譲渡所得を持分割合で按分し、3,000万円特別控除を共有者各自で適用できます。
共有不動産の売却では、全体の譲渡所得を持分割合で各共有者に按分します。各自の譲渡所得に対して所有期間判定や特例適用を個別に行い、それぞれが確定申告を行う流れです。
夫婦で1/2ずつ共有しているケースで考えると、譲渡所得3,000万円の物件を売却した場合、各自に1,500万円ずつ按分されます。それぞれが3,000万円特別控除の枠を持つため、夫婦合算で最大6,000万円まで控除可能な計算です。
ただし、建物を共有していない人(敷地のみ共有)は、原則として3,000万円控除を使えません。家屋の所有が前提条件のため、土地のみ持分を持つ共有者の按分譲渡所得には、通常の税率が適用されます。
確定申告は共有者全員がそれぞれ提出する必要があります。
買換特例を選ぶ場合、確定申告で課税繰延の処理を行う
買換特例を選んだ場合、売却益は新居売却時まで繰り延べられ、確定申告で繰延処理を行います。
買換特例を選ぶと、新居売却時まで売却益への課税を先送りにできます。新居を将来売却するときには、繰り延べた税金の精算が必要です。
確定申告では、買換資産の取得を証明する書類を添付して特例の適用を受けます。譲渡資産・買換資産双方の登記事項証明書、売買契約書、住民票が主な添付書類です。
売却年内に買換資産を取得できなかった場合は、買換予定の取得価額の見積額に基づいて確定申告を行い、翌年中に取得できなければ修正申告が必要になります。期限を超えると加算税の対象になるリスクがあるため、買換資産の取得タイミングは慎重な管理が欠かせません。
3,000万円控除との比較で買換特例を選ぶか迷うときは、税理士に試算してもらうのが安全です。
出典:国税庁「No.3361 譲渡した年に買換えができなかったとき(マイホーム)」
確定申告は翌年2月16日〜3月15日:必要書類を揃えて期限内に提出する
確定申告は売却年の翌年2月16日〜3月15日に提出し、譲渡所得の内訳書と複数の添付書類を揃えます。
譲渡所得が発生したケースや3,000万円特別控除を利用する場合、確定申告は必須です。期限内に提出しなければ特例は適用されず、満額の税金が課されます。
主な必要書類は、確定申告書(分離課税用第三表)・譲渡所得の内訳書・売買契約書・登記事項証明書・住民票・本人確認書類の6点です。3,000万円控除や買換特例を使う場合は、それぞれの特例に応じた追加書類も求められます。
書類は法務局や市区町村役場、不動産会社から取得するものが混在します。手元に揃え始めるのは売却後すぐが理想で、領収書類は1年分の保存が前提です。
確定申告書はe-Taxでオンライン提出ができ、マイナンバーカードがあればスマートフォンからも申告できます。記入や計算に不安があれば、税理士に依頼すると確実です。
まとめ
不動産の譲渡所得税は、譲渡価額から取得費・譲渡費用を差し引き、特別控除を適用したうえで税率を掛ける5つのステップで算出します。マイホーム売却なら3,000万円特別控除や10年超軽減税率を活用でき、課税対象を大きく圧縮できるケースも少なくありません。
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